2026/01/24 07:30

趣味の押し付けと思いつつ、子らには「日記は1日のことをまるまる書こうとせずに5秒のことを200字かけて書くと良い」と布教していたら、娘が“靴下をはいた状態で玄関に立ちサンダルと靴どちらを履こうか悩んだ”ことを日記に書いて習い事に提出していてさすがに私好みすぎてしまった。
(古賀及子さんのXより、2024年7月12日の投稿)
2年前くらいに「北欧、暮らしの道具店」で連載されていたエッセイ「5秒日記」が本になるらしい。日記に先輩も後輩もないだろう、と言われるかもしれないが、僕にとって古賀さんはたしかに日記の先輩だった。「日々をすごしたっきりにして忘れてしまう贅沢もすてきだけれど、私は貧乏性だから、家のちょっとした瞬間を残して覚えてわかっておきたいと思うのです」。僕の日記は、そんな彼女の言葉たちから多大な影響を受けている。(ほかには『日記の練習』のくどうれいんさん、毛色が違うが『アトリエ日記』の野見山暁治さんらの影響も大きい。)
-----
今日は鼻がよく利く日なのか。本を読んでいると、バターをたっぷり使った料理のにおいに気付いた。コーヒーじゃなくて珈琲の表記が似合うお店なのに。メニューに食事はなかったからきっと隣の家のものなのだろうが、珈琲店で洋風の香りがするのがおかしかった。あれはきっと、オムレツだった。ベーコンも入っていたらいいな、と妄想を膨らませる。
読書を終えて外に出ると、あの香りはどこにもなく、代わりに雨の匂いがした。そういえば、雑誌か何かで「雨の匂いが好きと言うと『そんな匂いは存在しない』と言ってくる奴がいるけど、そいつらとは仕事をしたくない」みたいなことを書いている人がいて、攻撃力が高くて好きだと感じたのを思い出す。
『日記ー2024年11月1日』
-----
いつかの小さなゆらめきを、サッと取り出せることの幸せたるやーー。たぶん日記がなければ、記憶の奥底から見つけ出せない、いや、そもそも仕舞い忘れてしまって、もう出会いようがなくなってしまうのだろう。それから、日記の若さも好きだ。そのときどきの感情をそのまま瓶詰めしたような新鮮さ。1ヶ月後、1年後にはきっと別の何かに置き換わってしまう それを残しておけるのはすてきなことなのだと思う。
そんなわけで、今週の日記を。
2026年1月19日(月)
地球儀が届いた。姉の結婚式の引き出物。ハンドボールより二回りくらい小さい、ちょうど手に収まるサイズ感で、丸い穴の空いた台座に乗せて飾るらしい。まっすぐ置こうと思ったが、手がすべって少し傾く。直そうと手を伸ばしかけたところで、「あ、ぴったりの角度だ」と気づく。23.4度、この傾きのおかげで四季があるか、としみじみして地球儀を眺めた。ありがたい。
2026年1月22日(木)
「今日お出しできないものと、メニューにないけどあるものがあります。今日は苺のタルトと、アップルパイと…。」
僕はこの言葉にめっぽう弱い。コーヒーだけを目当てにやって来たのに、こうなると苺のタルトを頼まざるを得ない。外は雪だし、などとよくわからない言い訳を頭に浮かべつつ、「苺のタルトと…。それに合わせるならコーヒーは何がいいですか」と聞く。
「わたしが今日合わせるなら…」
店員のお姉さんは指をくるりと回してからメニューを指差し、
「コスタリカを合わせます。ちょっとフルーティーで相性がいいですよ。」
と言った。「じゃあ、それでお願いします」と即答する。
数分後、届いたのは雪のようなクリームに包まれた苺のタルトだった。いい休日だ。
◇◇◇◇◇
この前、ふと、「昨年 旅行に行っていないから、今年は行きたい」と言って、「一緒に行ったのは旅行じゃないの?」と純粋で、困惑したような声が返ってきたことがあった。たしかに、一緒に淡路島も行ったし、能登にも熱海にも行った。
ある時期までの日本では、ハワイへの旅が「夢の旅」の代名詞になっていた。(中略)現代では、たとえどんなに遠くであっても行っていかれないことはなくなってきたという意味において、「夢の旅」というものが存在しにくくなっているように思える。とすれば、現代の「夢の旅」は空間ではなく、時間を超えた旅、過去への旅ということになるのだろうか。
(沢木耕太郎『旅のつばくろ』)
よいことなのかはわからないけれど、自分にとって旅行が夢でなく日常になったのかもしれない。旅に出ているのに旅に出たいなんて、「家にいるのに家に帰りたい」みたいだな、と思う。
ここまで書いて、いや、まったくもって反対だ、と気づいた。かつての僕は、「そこで、青森に行くことにした」などと、「なにが『そこで』なのか自分でもよくわからない」ことをしていたのだった。そしてその地を、はじめましての人と一緒に歩く、など。
さて、今年はどんな旅をしようか。のんびり考えていこう。
ともあれ、来週もすてきな日々になりますように。(2026.1.24)
[登場した本]
古賀及子『5秒日記』(ホーム社、2026年)
くどうれいん『日記の練習』(NHK出版、2024年)
野見山暁治『アトリエ日記』(清流出版、2007年)
沢木耕太郎『旅のつばくろ』(新潮社、2023年)
クォン・ラビン『家にいるのに家に帰りたい』桑畑優香訳(辰巳出版、2021年)
[写真]
2023年12月10日。よくわからない「そこで」で、屋久島に向かう船から
