2026/02/14 07:30

音を立ててゆで卵を割れなかった人のエッセイを読んで、自分はどうだっただろうか…と考える。そんな本を手にした、ということは…。ご想像どおり、子ども会で真ん中に置かれるお菓子も、修学旅行でのバイキングのスイーツも、牧場見学のときのヨーグルトの試食も食べられないタイプの子どもだった。

あるときから遠慮なんて持ち合わせていないふりを習得し、図々しく、大皿に残った最後の一つを食べられるようになった。最近食べられなかったものは思い当たらないほどの成長である。おなかを空かせたままでいることはなくなった一方で、いまだにおなかがはち切れそうになることがある。

最近は、とあるホテルの支配人とお話するときにそれが起こった。ありがたいことに僕のやっていることを応援してくれていて、泊まりに行ったとき、「チェックアウト前に話しましょう」と言ってくれたのだ。約束は9時、起きたのは8時20分ごろ。前回お話ししたときに「うちは朝食が自慢なんです」と言っていたことを覚えていたので、感想を伝えないと…と思い、ねむい目をこすりながら朝食会場に向かい、バイキングの料理たちを少しずつ、全種類いただいた。

満たされた、を少し越えるくらいの腹加減。このままベッドに横になりたい気持ちを抑え、がんばってジャケットに着替えて約束のロビーに向かう。
「おはようございます。ご朝食はまだですか?うちは朝食が自慢で、よかったらご一緒しながらお話ししませんか。」
爽やかな笑顔の問いかけに、「起きるのが遅くて、食べられていなかったので嬉しいです」と返してしまう。朝食会場に行くと、1人分のお皿とカトラリーが用意されていた。自分だけなのだったら正直に話せばよかった。そう思ってももう遅い。

「どれがおすすめなんですか」「ヘ〜こんな料理があるんですね」
大袈裟なリアクションをしながら、たくさんの料理を存分に楽しませてもらった。どんな話をしたかは、ほとんど覚えていない。
「いただきました、おいしかったです。」
はじめのお誘いに対して、どうしてその一言が言えなかったのか…。朝食会場のスタッフさんからしたら奇妙な客だっただろうな…。

あ、そういえば最近、4人で8枚切りのピザを食べたとき、残り1枚で「あれ、俺ってもう2枚食べたっけ?」と言った人に、「自分は食べたからまだなんじゃない?」と返したな。いまだに、よくわからない、いらない嘘をついてしまう日々でかなしい。


それはそうと、今週の日記を。


2026年2月7日(土)

意味のないことを、わざわざやりたい。ひねくれているので、たぶん物心ついたときからずっと、そう思って生きている。そりゃあ、好きになったからと、遠くの島に引っ越してしまうわけだ。それはさておき、図書館で見つけた本を読んで、楽しそうなことを思いついたのでお誘いです。自分たちだけの あいうえおの絵本をつくる会、「まるい」をできる限り多くたとえる会を一緒にやりませんか。

「地面を行き交う死ぬ間際の蝉のように盛り上がってますかー?」
「イエーイ!」
 観客がこんな反応をするかどうかはわからないが、もしもあなたがアーティストになった時のためにたとえを使う方法を覚えておいて損はない。
(せきしろ『たとえる技術』)

たとえるって楽しそうでしょう? たぶんアーティストにはならないし、なったとしてもあまり得はないと思うけれど。


2026年2月8日(日)

8:25、始業の5分前にあわてて家を出る。日曜出勤のやる気を出そうと優雅に水筒に紅茶なんか入れるんじゃなかった、なんて思いながら扉を開けると、そこは真っ白だった。そうだ、昨晩から雪が降っていたんだった。長靴に履き替えて、一歩。沈んでいく足がとまらない、まずい。スローモーションに見えたけれど、だからといって俊敏な回避ができるわけではない。膝上まで雪に埋まってしまった。雪ってこんなに積もるんだ、すごい。頭に浮かぶ感想が能天気でよかった。


2026年2月9日(月)

相も変わらずしょうもないことばかり考えており、今日は「かまじいになったら…」と想像した。一応理由はあって、「料理を作るときはいつも、ああ、あと、五、六本、腕があったらなぁと思うのだ」と群ようこさんが書いていたのだ(『トラブルクッキング』)。かまじいの腕は六本だから、やむをえないと言っていい。

かまじいのモデルはたしかザトウムシで、目はほどんど見えていない、とだれかに聞いた記憶がある。おそらく考える頭も一つだろう。うーーん、僕なら…。あれやこれや悩んだ末、1つの頭で、かつ視覚に頼れないなかで六本も腕を動かせる気がしないな、なんて元も子もない結論に至る。


2026年2月10日(火)

もう覚えていないくらいのことをして「ラッキーでハッピー」と言われたので幸せ。
見知らぬ町でふらっと入った銭湯に温度の高いサウナがあったときのような幸せ。


2026年2月11日(水)

19時まで寝ていました。大人になったら風邪を引かないと思っていたけれど、大人になってからのほうが小さな風邪との遭遇率が高くて困ってしまいます。明日のドッジボールは勝たないといけない!とかいう意気込みがなくなったからですか? そう思って、明日はナポリタンを食べないといけない!と考えたけれど、ちゃんと子どもらしい意気込みではない気がして嫌だな。


2026年2月12日(木)

今日も空がよくて写真を撮った。職場のお姉様方に「今日の空よいですね!」と言って、「また言ってるよ〜」と返される日常。そういえばこの前、いつもと違って、「洗い終わったお皿の写真撮りたくなるのと同じだよね。今日の積み方いい感じとか、この器の組み合わせが…とか」と返ってきた。そうです、そうなんです。いま を切り取れるのって嬉しいですよね。あとは、他の町でも同じように晴れてたらいいな、とかも思っています。


2026年2月13日(金)

来週 人が隠岐に来てくれるので、ちょうど1ヶ月間放置していた車のバッテリー上がりに対処することにした。とはいえ、自力で何かできるわけもなく、自動車屋さんに情けない声で電話する。
「すみません、バッテリーが上がってしまって、どうしたらいいかわからなくて…」
電話口は慣れた様子のお姉さんだった。
「どこですか?」
「自宅です」
「わかりました、今から向かうので待っていてください」

ん…? こちらは何もわかってなんかいないのに、家に来てくれることが決まっていた。
ものの15分くらいで作業着のお兄さんがやってきた。来てからもはやい。ボンネットを開け、バッテリーに、赤と黒の大きなクリップをつける。体感では1分も経っていないうちに、無事にエンジンがかる。どうやら直ったらしい。

「おわりましたんで、じゃあこれで」
「え〜すご(…い、ありがとうございます)」
あまりの速さにびっくりしてしまい、お礼の言葉が口の中からうまく出てきてくれなかった。お兄さんはそのまま颯爽と帰っていって、僕はあわてて会社にお礼の電話かけた。「いいえ〜、わざわざ(電話を)ありがとうございます」と、向こうではなんでもないかのような声のお姉さん。あれ、お金も求められていない…。電話を切ってから気づいた。せめて二人によいことが起こってくれ、そうでないと困る。


◇◇◇


嬉しいお知らせがあります。

3月5日に東京で、3月16日に隠岐で、本屋を開きます。どちらも15時くらいから夜までの予定。はやく伝えたいな、と準備中なので、ぜひ楽しみにお待ちください。

今日はバレンタイン。愛を伝える日らしいですね。
ともあれ、来週もすてきな日々になりますように。(2026.2.14)


[登場した/読んだ本]
生湯葉シホ『音を立ててゆで卵を割れなかった』(アノニマ・スタジオ、2025年)
tupera tupera『tupera tuperaのアイデアポケット』(ミシマ社、2024年)
せきしろ『たとえる技術』(新潮社、2019年)
群ようこ『トラブルクッキング』(集英社、1998年)

[写真]
2025年12月26日。隠岐の雪と空