2026/02/28 07:30

私は毎年の初めに『山下達郎のサンデー・ソングブック』で放送される山下達郎さん×宮治淳一さんのマニアックすぎる「新春放談」が大好きです。それは、いい音が鳴るレコードが目の前にあればそれでいいという、趣味人の自律的な時間が流れていて安心できるからなのですが、今回取材した東大の様々な研究室にも、それと同じ時間が流れていました。

大学の周りには、壁がある。その壁が、大学人たちの時間を守っている。一方で大学の壁は、それを乗り越えて知りたいと望む人にはとても寛容で、敷居を下げて、めくるめく学問の世界に案内してくれる。
(BRUTUS、2026年2月20日「『東京大学入学案内』編集後記:大学には壁がある」)


昨年、8年間通った大学・大学院を卒業してしまった。ついつい長居してしまったのは、「趣味人の自律的な時間が流れていて安心できるから」、そして、何者でもない田舎者にも「寛容で、敷居を下げて、めくるめく学問の世界に案内してくれ」たからだと思う。

東京大学という場がどんな場であったのか、いつも周縁に身を置き、査読論文の一本も書か(け)ず、学問には片足の小指くらいしか踏み込ま(め)なかった僕に語る資格はないと思うが、たしかに言えるのは、多くの人が生きる社会とは異なる時間が流れており、それが僕にとって心地よかったということだ。

大学に人より長く身を置いて気づいたことがある。「その研究が将来何の役に立つんですか」という質問のナンセンスさたるや! 誤解を招く表現なので補足しておくと、研究の有益性を否定するものではない。有益性とは常に社会によって規定されるもので、大学には外とは異なる物差しと論理があるのだ。そう思うと、島に引っ越したのは、大学のおかげといえるかもしれない。(と書きつつ、本当は、そのおかげだと確信している。)

珍しく学生時代のことを書いたついでに、もう少しだけ。

たまに、優しいね、と言ってもらえることがあるが、もし本当ならばそれも大学のおかげだと思う。寒いところにいる熊は白くて ノヴァヤゼムリャが寒いところだとしても ノヴァヤゼムリャにいる熊が何色かは見たことがないからわからないし(森田真生『偶然の散歩』)、ショートケーキを5等分することは当たり前にできることではない(宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』)。こんなことを 知った のが、「考える」を考えた梶谷真司教授の講義であり(著書に『考えるとはどういうことかーー0歳から100歳までの哲学入門』など)、社会学に関わるようになってから学んだ障害学や構築主義だった。

なんでこんな話になったんだっけ。そうだ、BRUTUSですね。3月1日号『東京大学入学案内』、ぜひ手に取ってみてください。

いつか大学のころの話なども書いてみたい、なんて考えながら、ここらでいつもの色に戻しましょう。
今週の日記をどうぞ。温度差があるかもしれませんが、きっとあたたかいほうなのでご安心を。


◇◇◇


2026年2月21日(土)

たしか、おいしい朝ごはんを食べたはず…とカメラロールを遡ると、どうやら食べたのは 12:40 だったらしい。なんとも休日らしい休日でよい。人が島に来ていたので、車を走らせて、海岸で石積みをする。この色は自分の好きな色、この色はあの人が好きな色、と分けていたら、足元が全部かわいく見えてきた。帰宅して、住んでいる島で最近つくられはじめたビールを飲む。チーズケーキも(人が)つくった。よい休日。

追記:「あ、チーズケーキ食べ忘れた」と、寝る前にあわてて1スプーン(正直に言うと2スプーン)口に入れた。やっぱりよい休日。


2026年2月22日(日)

4人で焼肉を食べに行く。めいめい 好きなものを好きに頼むスタイル。そういえば昔住んでいた家の1階にある中華料理屋の名前が めいめい だったな。あんかけチャーハンがおいしい、あのお店。それはそうと、デザートにソフトクリームも抹茶アイスも食べている人がいて、こんな大人になりたいと思った。


2026年2月23日(月)

我が家の和室は障子がカーテンの代わりになっており、日差しを感じるのはいつも障子越し。朝、我が家に来た人が、障子も窓も開け放ち、外に足を放り投げていた。(放ってばかりだ。)なるほど、この家ってこんなところだったのか。川のゆらゆらが天井にうつるのも、その川の中に魚を見つけたらしかったのも、穏やかで 新しくて よかった。


2026年2月24日(火)

お弁当をつくった。つくった、というと嘘か。お弁当を持っていった。昨日まで我が家に来ていた人がつくってくれた食べ物たちの詰め合わせ。冷凍庫に納められていた肉団子には先日つくっておいたトマトソースをかけて、あとはもらったものをそのまま詰め込み、あたかも自分がつくったかのような顔をして持っていく。

職場でお弁当を広げると、中をのぞき込んだマダムが聞いてくれる。「すごいね、自分でつくったの?」 うん、とは言いたくなくて、ちょっとだけ自慢したくなってしまって、「つくってもらったんだ」と自慢した。

と、ここまで書いて、我ながらかわいい話じゃないか、と思う。かわいくてごめん、と歌った人の気持ちが今なら少しだけ理解できそう。


2026年2月25日(水)

「行けそう、好きそう、似合いそう そんなひとに公開!!」とイベントを紹介してくれた人がいて喜ぶ。だれかにおすすめしてもらうって、好きって思ってもらうよりもはるかにハードルが高いことなんだと、マーケターの人が言っていたことを思い出す。NPSって言ってましたっけ…と、曖昧な記憶をたどって調べてみると、「NPS(ネットプロモータースコア)は、単なる満足度とは異なり、顧客の真の愛着度や口コミ・推奨行動を定量的に測定できる」とのこと。へー、って思いながら、もっと喜んでもいいってことか、と もっと喜んでみる。

嬉しい紹介をもらったけれど、じゃあ どんな人が好きそうで、どんな人が似合いそうなのだろうか。烏滸がましい気もしつつ、「たとえば こんな色が好きな人は好きだと思います」と写真を9枚選んでみた。その成否はさておき、これから、たとえば をたくさん増やしていけたら幸せなんじゃない? 先週とちがって、今週はずっとご機嫌で自分がかわいい。


2026年2月26日(木)

朝、あまりに春。いつもより早く目を覚ますと、鳥たちが元気にさえずっているのが聞こえる。眠くて布団から抜け出すことはできないので、近くの木に止まっている鶯の姿を思い描く。うぐいすあんと同じ、鮮やかな色だったから、今思えばそれはメジロだったな。

昼、「うきくさ堂さん、これ読んでみて」と『冬榮舎通信』を見せてもらう。松江の古本屋・冬榮舎さんが発行する通信で、店主やそのほかの人による本の紹介(本も紹介するエッセイ、といったほうが近いかもしれない)が載っていた。いいな、こんなことがしたい。第一回は「石の見方」なんてどうだろうか? 石好きなあなたにお願いしたい、と思い浮かぶ顔がちらほら。

夜、来週のイベントに向けて、本に添える言葉を考える。
「晴れたから、違うオレンジに乗り込んで熱海なんかに行ってしまおう」「ショートケーキが人生を変えると思ったらそうだし クロワッサンと思ったらクロワッサン」
こんな言葉たちとともに並ぶ本はどんなものでしょうね。40冊の本を抱えて、東京に向かいます。


2026年2月27日(金)

今日も元気な人が、「静かになることが今年の目標だった」と言っていて、「過去形だから、きっと無理だよ」と返した。しばらくして、同じ人が「ピクニック行って、シャボン玉して バドミントンしたい!…ファンシーすぎる?」と言った。「いいと思う、われらファンシーなので」と返す。


今週もすてきな日々になりますように。(2026.02.28)


[登場した本など]
BRUTUS、3月1日号『東京大学入学案内』(マガジンハウス、2026年)
森田真生『偶然の散歩』(ミシマ社、2022年)
宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮社、2019年)
梶谷真司『考えるとはどういうことかーー0歳から100歳までの哲学入門』(幻冬舎、2018年)

[写真]
2026年2月20日。たとえば こんな色が(隠岐)